大日方邦子のコラム

新兵器の実力は? 《月刊スキージャーナル 2003年12月号》

最終更新日: 2007/09/18 | Edit

 先日、義足を新調した。6月に作り始め、紆余曲折を経て、ようやく完成に至ったのだ。人間の体型は、たとえわずかずつでも日々変化する。だから、長く使っているうちに、どうしても義足が合わなくなってきてしまう。そして合わない義足で歩き続けていると、義足を付ける部分(断端という)に傷ができるだけでなく、腰や背中など、あらゆるところに不要な負担をかけることになってしまい、体調が大きく崩れてくるのだ。今回、私が作り直すことを決めた理由も、まさしくそれだった。ところが、その矢先に左脚の膝を痛めてしまい、とても義足を作れる状況ではなくなってしまったのである。痛めた膝もどうにか癒え、義足作りを再開できるようになるまでには、ずいぶんと時間がかかってしまった。

 義足のフィッティングは非常にむずかしい。大腿から切断している私の場合、太股の残された部分にぴったり合うソケットを、石膏で型どりをして作る。そのようにして作られたソケットは、滑りやすい布などを間に入れて引き抜くことにより、太股にぴったりと吸着させることができるのだ。なかなか言葉だけでは説明しにくいのだが、スキーにたとえるならば、インナーからシェルまですべてをフルオーダーして作るスキーブーツの感覚に似たところがあるかもしれない。


 と、ここまで書いてきて気づいたのだが、もしかすると、私が歩けることをご存知なかった方もいるのではないだろうか。チェアスキーや車いすに乗っている姿は目立つので、印象に残りやすいと思うが、義足を使って歩くこともある。とはいえ、滑りやすく、足場の良くない雪道では、長い距離を歩いたり早足で歩くことはむずかしい。けれど、舗装された道ならば、自分のペースでゆっくりとではあるが、歩くことができる。車いすを使うようになったのは、スキーを本格的に始めてからで、それまでは杖も使わずに歩いていたのだ。学生時代の友人たちは、車いすに乗っている私をテレビで見て、驚いたらしい。


 ちなみに、スキーを始めたばかりの頃は、日常用の義足を付けてチェアスキーに乗っていたこともある。けれど、動きが激しくなるにつれ、身体によけいな負担がかかり、ケガにつながる危険があるため、はずして乗るようになった。


 義足ではないほうの脚の状態が良ければ、ご承知のとおり、片脚でスキーをすることができる。けれど、残された足にも障害が残る私の場合、滑ることはもちろん、足場の悪い雪上を片脚で移動することは、やはり危険がともなう。というわけで、雪上にいる時は、車いすを使うことが多くなったのだ。そして車いすでならば、自分の脚で歩くよりも数倍、速く移動できる場合も多いことに気づき、日常生活のなかでも車いすを使うことが増えた。


 義足を新調して、よけいな負担が膝や腰にかからなくなると、思いのほか、長い距離、長い時間、歩くことができるようになった。さらに歩くことの重要性にも気がついた。とくに持久力をつけるための運動をしようと考えた場合、車いすを使うよりも、歩いたほうが効果的だ。車いすをこぐことで心拍数を120程度に維持するのは、なかなかむずかしい。けれど、義足を付けてゆっくり歩けば、私の場合、それだけで、持久力の運動になるのだ。


 靱帯が伸びている膝という「爆弾」を抱えているので、そちらの調子をうかがいながらではあるが、新しい義足とともに、少しずつ、歩く機会を増やしたいと思っている。


 ここ数年で、義足は大きな進化を遂げている。たとえば、私が今、使っている膝は、コンピュータ制御されている。あらかじめ自分の歩くスピードを測定し、その数値を打ち込んでおけば、速度にあわせて自動的に膝を振り出してくれるのだ。そして今回の新作では、足首も進化したバージョンになった。かかとの角度を靴に合わせて変えられ、足首の「かえし」のような感覚も得ることができるものになっている。


 何度も何度も義足を作ってもらうために通い詰めているうちに、まだ普及率が低いけれど、すごく良さそうな新しいパーツに出会う機会にも恵まれた。柔らかなシリコンを使って作るもので、傷ができにくく、衝撃保護にもなり、装着も今までよりは簡単にできそうなソケットだ。日常用義足に使うには、まだ解決すべき問題もありそうだが、これを私は、スキー用のソケットに使えないかと考えた。


 陸上や水泳など、いろいろなスポーツに対応できる義足を作っている義肢装具士の方と話し合った結果、新しくスキー用のソケットを作ってもらえることになった。今までは、スキーウェア(ワンピース)を着てからソケットに脚を入れていたが、今度はソケットを付けてウェアを着ることができるようになり、装着時のズレがなくなり、シートとのフィット感がより高まるはずだ。そうすれば、力と動きをスキーへ伝えやすくなり、かつチェアスキーへの乗り降りがしやすくなるのではないか、と期待している。


 この新兵器を試せるシーズンは、まもなくだ。そう思うと、胸が高鳴り、わくわくしてくる。