大日方邦子のコラム

ハンディキャップはいかがですか? 《月刊スキージャーナル 2004年7月号》

最終更新日: 2007/09/18 | Edit

 今シーズンの滑り納めは4月初旬の志賀高原だった。アイスティ・カップというシリーズレースの最終戦に、前走として出場したのだ。いわゆる草レースだが、他と少し違っているのは、障害者と健常者が一緒に楽しむことを目的のひとつに掲げていることだろう。実際、私のチームメイトもたくさん出場していて、ちょうどシーズン最後の打ち上げのように、わいわいと盛り上がっていた。ワールドカップと同様、一シーズンに複数の会場で行なわれてきており、登録チームによる団体表彰や、個人総合優勝などを決める最終戦でもあったため、余計に盛り上がっていたのかもしれない。真剣勝負のなかにも、春の暖かい陽気も手伝って、どことなく和やかなムードがあり、とても楽しい大会だった。

 このアイスティ・カップには、障害者と健常者がそれぞれのクラスに分かれて競うだけでなく、その枠を取り払った総合の表彰もある。これは、なかなかすごいことだ。想像してみてほしい。片脚の選手も片腕の選手もチェアスキーの選手も、そして健常者の選手も皆、一緒に順位をつけられるのである。これぞユニバーサル・スポーツとしてのアルペンスキーの真骨頂ではないだろうか。


 クラスをまとめるにあたり、障害者クラスの選手には、パラリンピック等で使われているハンディキャップが適用される。つまり、障害の部位や程度を考慮した上で、実際に滑ったよりも速いタイムに換算されるのである。実測タイムでは、とくに障害の重いクラスの選手にとって、たとえ草大会といえども健常者と対等に渡り合うことはむずかしい。しかし、この計算タイムなら勝負できる。今回も、わがチームメイトたちが何人も上位に食い込み、チェアスキーの長谷川順一選手にいたっては、なんと男子総合優勝を果たしてしまったのだった。


 ただ、よく考えてみれば、われわれはナショナルチーム選手だ。障害者スキーの枠組みのなかでのこと、とはいえ、長谷川選手は今年2月の世界選手権で銅メダル2個を獲得しているし、出場選手の中には金メダリストもいた。パラリンピックで使われるハンディキャップを、そのまま草レースで適用するのは、われわれナショナルチーム選手にあまりにも有利すぎる気もする。来年以降は、ナショナルチーム選手向けの逆ハンディキャップを導入すると、すべての参加者にとって、よりフェアな勝負になるかもしれない。


 またもうひとつ、レースを見ていて思いついた画期的(?)なアイディアがある。「障害者と同じ条件で滑れば、健常者にもハンディキャップを認める」というのはいかがだろうか。たとえば、片スキーで滑ればLW2クラス、片ストックで滑ればLW6/8クラス、ストックなしで滑ればLW5/7クラス、さらに目隠しをしてガイドの誘導で滑るという猛者にはB1クラスのハンディを、それぞれ適用するのだ。いわば、「なんちゃって障害者」である。別に不謹慎でもなんでもない。われこそは、と思う方にはぜひトライしてほしいと思う。


 トレーニング種目として、ノーストックや片スキーで滑ったことのある人はいるはずだが、試合にまで出た人はさすがに少ないだろう。実際、よほど慣れていないと相当に苦労することは間違いない。でも、その苦労のなかから、障害者スキーへの新たな理解が生まれてくるのではないかと、私は期待しているのだ。もちろん、堅苦しいことなど考えずに、挑戦する人にはただ楽しんでもらえればそれでいい。クラブの罰ゲームに使ってもらってもかまわない。とにかく体験して感じてもらうことが重要だ。


 勇敢な挑戦者には、ハンディキャップ係数を得られる以外にもメリットがある。アイスティ・カップでは、ハンディキャップのついたクラスが真っ先に出走する。健常者でもこのクラスに自ら入れば、もれなく早いスタート順をゲットできるだろう。今回のレースを見ていると、参加者も多く、また緩みやすい春の雪だったため、コースはかなり早い段階から荒れてきていた。こうした条件でのレースでは、スタート順の早さはなかなかの魅力ではないかと思うのだが、いかがだろうか。


 さて、ここで参考までに、ハンディが適用されるとどの程度タイムが早くなるのか計算してみよう。たとえばGSで、ハンディ適用後の計算タイムを1分00秒にするには、それぞれ次の実測タイムで滑ればいい。


 LW2(片スキー) 1分04秒67
 LW6/8(片ストック) 1分00秒(※SLにはハンディあり)
 LW5/7(ノーストック) 1分01秒01
 B1(目隠し) 1分42秒14


 また、これは今大会すでに実践していた方がいたが、チェアスキーで滑れば、私と同じLW12/2クラスのハンディを適用しよう。すると、計算タイムを1分00秒にするには、実測1分09秒99で滑ればよいことになる。「チェアスキーに乗ってみたい」という声はよく耳にするので、希望者は現われるのではないだろうか。もちろん、いきなりレースに出るのは無謀なので、練習は必要だ。そのためにも、多くのスキー場でチェアスキーが簡単にレンタルできるシステムが整備されればいいと願っている。そうすれば、スキーを楽しむ障害者がもっと増えるだろうし、チェアスキーを新しい雪上スポーツとして楽しむ人たちも出てくるにちがいないと思うからだ。


 このアイディアを思いついた私は、さっそく運営スタッフの方に伝えてみたところ、「おもしろそうですね」と好感触を得た。これだけ大きなイベントを、仕事の合間を縫って成功に導いている皆さんだけに、スキーにかける情熱とフットワークの軽さは相当なもの。もしかしたら来年の大会では、私の思いつきが採用されているかもしれないし、もっと面白い企画やルールが発案されているかもしれない。