大日方邦子のコラム

飛躍のシーズン 《月刊スキージャーナル 2005年1月号》

最終更新日: 2007/09/18 | Edit

 11月の声を聞くととたんに、「シーズン到来だ!」と心も身体もうずうず、東京での生活がいつもにまして嫌になり、山への願望は強くなる一方だ。ついインターネットを立ち上げては、スキー場のライブカメラ映像やら積雪情報を覗いてしまう。けれど、想いはなかなか届かないものらしく、「まだこれしか雪がないの〜!」と嘆く日々が続いている。すでに立冬を迎えたというのに、冬にはほど遠い暖かい日が続いていて嘆かわしいこと限りない。今年も例年どおり11月下旬からは雪上に立つ心づもりはできているのだが、果たして「立つ」だけでなく「滑る」ことができるくらい、雪が出来上がっているのだろうか。どうにもならないとは知りつつ、心配で仕方ない。

 早いもので今シーズンはいよいよトリノ・パラリンピックのプレシーズンだ。今年の目標はワールドカップで安定した成績を残すこと。今シーズンの障害者ワールドカップは4会場で行なわれるが、日本チームはアメリカ・カナダの大会には参戦せず、ヨーロッパ2会場のワールドカップと、その前後に行なわれるヨーロッパカップに出場することになるだろう。


 障害者スキーの世界でも、ワールドカップの重要性は年々増してきている。とくにソルトレイク大会以降、FISDポイント(障害者のFISポイント)の本格導入が進められ始めたことが大きい。ここ数年のルール変更により、世界大会へ出場するためにはこのFIS−Dポイントを獲得する必要が出てきていた。レースポイントの有効期間は1年数カ月なので、ポイントを維持し、出場資格を持ち続けるためには、毎年ワールドカップに出場し、ある程度の成績を残さないと、次年度以降の活動に大きく影響するようになっているのだ。といってもこれまでは、高速系と技術系とを合わせた総合ポイントで出場資格が決められていたので、得意不得意をそれほど気にする必要はなかった。


 それが今年、ルール改正によって、トリノ・パラリンピックに出場するためには、高速系と技術系を分けて、それぞれにクリアすべきポイントが設定された。 4種目すべてに出場するには、高速系ならばダウンヒルとスーパーGの2種目で最低2試合、良い成績を出すこととが必要で、同じように技術系でも2種目で2 試合、良いポイントを取得する必要が出てきたのだ。


 私自身の昨シーズンを振り返ると、「勝つかゴールしないか」というようなばらつきが目立った。世界選手権のスーパーGでは2位を大きく引き離す成績で優勝したものの、ワールドカップでは途中棄権と5位に終わり、ダウンヒルも転倒によって成績を残せていない。5位という成績が足を引っ張り、優勝したわりには思うようなポイントが得られていないのだ。そう考えると今シーズンはやはり、高速系・技術系それぞれで複数回、表彰台の真ん中に立つことを目指したい。


 トリノ大会に向けて、新しいチェアスキーフレームの準備もようやく形が見えてきた。トリノモデルのフレームは、前モデルの基本コンセプトを引き継いだ上で、いくつかの構造的な問題点を改良したものになる予定で、シーズンインには間に合うよう、届くはずだ。そして、同時進行で、新しいシートも製作中だ。身体とフレームを結びつけ、的確に力をスキー板に伝えるためにはシートが重要な役割を持つ。シートは選手一人一人の身体にフィットするようオーダーメイドされている。コンピュータを使って体型を型取りし、素材を使い分けることでシートの硬さを調整したり、ベルトの取り付け位置など、細部まで入念に打ち合わせして作り上げていく。腹背筋をフルに使いたい私の場合、シートは身体にフィットしたうえで、ある程度フレキシブルに動く軟らかさが欲しい。太股や腹筋のわずかな動きをとらえて、フレーム→スキー板へと力を伝えられるようにしたいのだ。先日、途中まで仕上がったシートを調整するため、メーカーのある大阪まで出向いたが、想像以上に良いフィーリングで、滑って感触を試すのがますます楽しみになった。


 用具に関しては今シーズンもうひとつ、新しい試みを進めている。スラローム用の特製プロテクターだ。世界のスラローム技術は、この数年で大きく変わった。ほんの数年前までは、チェアスキーヤーの場合、スラロームポールは倒さずにすり抜ける技術が一般的だった。しかし今、男子トップ10に入ってくる選手は、障害の程度にかかわらずほぼ全員がポールをなぎ倒して滑る。身体で体当たりするか、もしくは腕に持ったアウトリガーの滑走面に当ててポールを倒すか、どちらかだ。私も数シーズン前から体当たりする滑りに挑戦中なのだが、ポールが当たる上半身のあちらこちらにアザができてしまい、ポールと格闘というよりは、痛みやケガとの戦いになっていた。ポールが当たる場所には、インナーにパッド代わりのゴムを貼りつけたり、縫いつけたり、あるいはスノーボードや野球など他のさまざまなプロテクターを代用してしのいできた。しかしプロテクターの数は増え続け、特製のインナーもすっかり分厚くなり、身体の動きを阻害するようになっていた。そこで今年は、シートをオーダーメードする技術を生かしてもらって、スラローム用のプロテクターを作ってもらうことにしたのだ。上半身用のプロテクターはほぼ完成した。さらに新しいフレームが届いたところで、脚部を保護するための特製プロテクターも計画している。


 久々の雪上感覚を味わえる日はもうすぐそこまで来ている。新しいチェアスキーが届くのが先か、人工降雪機が本格稼動できるほど気温が下がるのが先か、どちらも首を長くして待つ今日この頃である。