最終更新日: 2007/09/18 | Edit
「パラリンピックにはいろんな種目があるのに、どうしてスキーを選んだの?」
長野パラリンピック以来、何十回と受けている質問だ。東京に生まれ、横浜で育った人間がアルペンスキーという種目でパラリンピックに出場している、という事実は、多くの人に「よりによって、なんでスキーなの?」という疑問を持たせるものらしい。
簡潔に答えるのはとてもむずかしい質問だ。この質問の最終的な答を引き出すには、まずチェアスキーとの出会いや、始めたきっかけ、チェアスキー独自の魅力をいろいろと語ることも必要だが、何よりもまず、スキーそのものの魅力についても、延々と語る必要があるからだ。白銀の世界の美しさだとか、ゲレンデを疾走するスピード感だとか、□でいろいろ表現したところで、スキーをまったく経験したことのない人に理解してもらうのは容易なことではない。しかし、スキージャーナル読者の方々ならわかっていただけるだろう。多くのスキーヤー同様、私もスキーに出会った瞬間、その魅力に「はまった」ひとりにすぎないのだ。一秒でも長い時間、ゲレンデで過こしたい、と思い、わがままとも言えるその願望を実現してきた結果、パラリンピックに出場するチャンスを得た。アルペンスキーはお金も時間もかかる競技だ。もし、パラリンピックに出場することを目的に始めた人がいたとしても、心の底からスキーを愛せない限り、日常生活に多くの犠牲を払って、練習量を確保するモティベーションを保つことはむずかしい。
スキーの魅力の虜になったきっかけは人それぞれだと思うが、私の場合、生まれて初めて見たゲレンデの強烈な印象がその後の人生を変えた、と言っても過言ではない。
初めてのスキーを前に、期待と不安で胸を高鳴らせつつ、夜行バスの車窓の風景に目を凝らしていたのは17歳のときだった。突然、闇の中から姿を現わした、オレンジ色の照明でライトアップされたゲレンデの美しさは、何十年たっても脳裏から消えることはないだろう。オレンジの光に反射した雪の白さと、時間が止まったような静けさに圧倒され、何も言えず、呼吸することも忘れて、ただただ目の前に広がる景色に見とれた数分間を、今も昨日のことのように鮮やかに思い浮かべることができる。
生まれて初めてスキー板を履いたこの羽烏湖スキー場にはそれ以来、行ったことがない。ひょっとしたら初めて見たゲレンデの美しさのイメージが自分の中でデフォルメされているのかもしれない。しかしそれでもいい。脳裏に焼きついているあのときの美しい映像は、いまだに私をスキーに駆り立てる原動力のひとつであり、心の奥底に大切にしまってある、決して壊したくない宝物なのだ。
人間は、初対面の人と知り合うとき、一瞬の問に、顔の造作や表情を読み取って第一印象を決めるものだが、私にとっては、スキー場との出会いにも同じことがいえる。初めて滑るスキー場はとりわけ第一印象が良いものであることを願い、なるべく余裕のあるスケジュールを立てるようにしている。未体験のゲレンデに行く日は、ひときわ胸が高鳴るものだ。決まったゲレンデでトレーニングすることが多いので、それほどスキー場をたくさん渡り歩いているわけではないが、私の頭の中には、国内外を問わず、過去に行ったことのあるゲレンデひとつひとつの印象が、少しずつだが、しっかりと記憶されている。ゲレンデの印象は鮮明なのに、その夜、泊まった宿については、まったく覚えていない、ということもときどきあり、過去に行ったスキー場の記憶をたどるのは、けっこうおもしろい。
さてそんな中で、結局どのスキー場に行けば楽しめるの?、とよく聞かれてしまうのだが、これに答えるのも、とてもむずかしい。どんなときでもゲレンデに立てばトレーニングモードになってしまう今の状況を考えると、私にとっては、アクセスの良さやコースの条件など総合的に練習環境が整っていることがゲレンデ選びのポイントになる。練習に適したゲレンデが、さらに雪質の良さ・コースの多様性・すばらしい眺めなどを兼ね備えていれば言うことはない。
選手という立場でなくなったら、現役時代に行ったことのあるスキー場を、ひとつひとつていねいにまわってみたい。ひたすらコースの滑り方、技術の向上を考える今とは、まったく違う視点でそれぞれのゲレンデを堪能することができるだろう。とくに一度だけ試合で訪れたウィスラーと、何度か合宿を行なっているティーニュには、日本での生活も仕事も忘却の彼方に追いやって、心から満足するまで2カ月、3カ月の単位で滞在してみたい。そんな夢がかなう日が果たして来るのだろうか……?
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