大日方邦子のコラム

寒波に見舞われたカナダ遠征 《月刊スキージャーナル 2007年2月号》

最終更新日: 2008/01/25 | Edit

 今、このコラムをチーム遠征先であるカナダの宿舎で書いている。今回の合宿地は、パノラマスキー場だ。玄関口となる空港はカルガリーで、最寄の街はバンフ。いずれもアルバータ州なのだが、ここパノラマは2010年のオリンピックおよびパラリンピックが開かれるウィスラーと同じブリティッシュコロンビア州にある。ちなみに、ここからウィスラーまでは車で行くならば「3日間」だと言われた。同じ州内だというのに、なんというスケールの大きさだろうか。さすがはカナダ!

 実をいうと、ここに到着するまでにはそれなりに大変な苦労があった。乗り継ぎをするバンクーバー空港が雪に見舞われ、カルガリー行きの飛行機の出発が大幅に遅れてしまったのだ。しかも、ようやく着陸できたカルガリーも寒波の真っ只中。マイナス23度という外気温に機体のドアが凍り付いてしまい、開くまでにまた時間を要する始末だった。結局、到着予定時刻から4時間以上オーバーして、われわれ一行はカルガリーに降り立った。時計を見ると、夜の11時を過ぎている。予定どおり夕方に到着していたら待っていたはずのバスの姿は当然なく、ここでパノラマ入りを断念。気がつけば空港の荷物預かり所も閉まってしまい、私たちは大荷物を抱えて、とりあえずカルガリーで一泊できるホテルを探すしか他に選択肢がなくなった。

 パノラマスキー場には結局、丸一日遅れで到着。これまで何度も海外遠征に参加しているが、これほど大幅にスケジュールが狂ったのは初めてのことだ。メンバーが全部で9人と小規模で身動きが取りやすかったことと、混乱の中でも荷物がなくならずにすんだことは幸いではあった。これがもし、試合を控えての移動だったら、こんなにのんびりとした気持ちではいられなかっただろう。

 一日遅れで始まったパノラマでのトレーニングはなかなか充実したものだった。実は私たちが到着したとき、スキー場はまだ一般向けにはオープンしておらず、レーシングチームにのみ、エリア限定で開放している状況だった。周りは皆、レーサーばかりで、合宿地そのものの雰囲気だ。しかし、寒波のため、最初のうちはマイナス20~30度の日が続いたのには参った。この気温になると、感覚的には「寒い」を通り越して「痛い」だし、ゴーグルの内側のわずかな水滴が一瞬にして凍りつく。顔や手足先の凍傷にも注意が必要だ。外にいるだけで体力を著しく消耗するので、長時間の練習はできず、小休止も必須になる。

 けれどもそんな中で、ジャケットを脱ぎ、レーシングスーツでトレーニングしている猛者もおり、モチベーションが高いというのか、無謀というのか、私には到底まねできないことだと思った。そんな「ワンピ一枚組」のチームのひとつが、カナダの障害者ナショナルAチームだ。聞くところによれば、2010年のバンクーバー・パラリンピックを控え、さらにトリノでの好成績も影響したということで、チーム予算が大幅に増えたらしい。

 カナダチームはもともと、スタッフも選手も比較的日本チームに対してフレンドリーな人が多く、今回も、一緒にトレーニングをする機会を数日間、設けることができた。そのトレーニング内容は私たちにとって、とくにSLは予想外にハードなもので驚かされた。ソルデンの雪不足によりSLポールトレーニングがまったくできていなかった私たちだったが、ポールトレーニング2日目にして、いきなり起伏の多い斜面に、リズム変化のある50旗門以上のセットが立てられたのだ。もう少し基本練習を積みたかったところではあったが、これほどのセットを滑れるチャンスもそうはない。というわけで、日本チームのメンバーたちは積極的にカナダのコーチが張ったポールセットにアタックしていた。

 そして今回、もっとも良かったのはスーパーGのトレーニングを合計4日間、短時間ながら専用コースで行なえたことだ。起伏に富んだコースはきっちりとセパレートされ、安全対策としてBネットがすべて二重に張られている。毎日、朝晩にグルーミングされたコースにセットが立てられ、カナダのナショナルジュニアチームがおもに利用している。私たちはその合間を縫うような形で、トレーニングをさせてもらうことができた。全長約2キロ、チェアスキーの選手で約70秒程度のコースだ。

 時間が限られていたこと、セットを自由にできなかったこと、フリー滑走が充分できなかったことなど、欲を言えばきりがない。けれども、日本でも海外でも高速系のトレーニングをこれほどしっかりできたことはなかった。どうしてもGSの弧になってしまいがちな傾向がある私としては、「完成した」とはとても言えないけれども、高速系種目とは何か、を身をもって感じることができたのが成果といえるだろう。

 そして合宿最終日の今日は、SLのタイムレースを終えた後、全員で山頂ツアーに出かけた。リフト3本を乗り継いで上がった山頂は、それまでのトレーニングバーンとは別世界の景色だった。圧雪されていないコースを滑れたのもなかなか面白く、「スキーって楽しい!」とあらためて感じることができたように思う。

 チームとしての個人としても課題が見えてきた合宿ではあったが、大きなケガもなく最終日を迎えることができて、今はホッとしている。後は無事にトラブルなく、日本に帰れることを願うばかりだ。そして次の遠征は、年明けの1月、アメリカ&カナダで開かれるワールドカップ。また寒波に見舞われないことを祈りつつ、試合に向けてモチベーションを高めていきたいと思う。