大日方邦子のコラム

旭川を満喫!《月刊スキージャーナル 2007年3月号》

最終更新日: 2008/01/25 | Edit

 12月下旬、カナダから帰国してまもなく、今度は北海道に出かけた。目的地は旭川。4泊5日の日程で市内に滞在し、講演会やスポーツ施設の見学、スキー場の視察とデモンストレーションを兼ねた滑走、そして犬ぞり体験など、盛りだくさんでなかなか楽しい旅をしてきた。

 講演会の話は、旭川在住のパラリンピック選手、永瀬充さんからの依頼がきっかけだった。パラリンピック種目のひとつ、「アイススレッジホッケー」のゴールキーパーとして長野、ソルトレイク、そしてトリノ大会に連続出場している永瀬さんとは、競技は異なるものの親交が深い。また、競技種目を超えて現役選手同士が情報交換をする場として「日本パラリンピアンズ協会」(PAJ)を設立するにあたり、何度も話をするなかで、障害のある人たちがスポーツに親しめる環境をより充実させていきたい、という彼の姿勢には以前から共感していた。そんな永瀬さんは、地元・旭川で自身の競技環境を整備しつつ、広く市民に障害者スポーツ全体への理解を訴える活動を続けてきた。彼の地道な活動が身を結び、今、旭川では、障害の有無にかかわらず、さまざまなスポーツやアクティビティを楽しめるユニバーサルな観光地になろう、というムーブメントが盛り上がり始めたところだ。地元の異業種の人たちが集まって、障害者スポーツの振興を支援する体制作りをしたり、身体に障害のある旭川在住の人たちを中心に、旭川とその周辺の豊かな自然を満喫できる旅行を企画するなどの取り組みが行なわれ始めている。

 旭川にはホッケー選手の永瀬さんの他、クロスカントリーのパラリンピック代表選手も在住しており、すでにホッケーとクロスカントリーの大会、合宿を受け入れてきた実績を持つ。障害者スポーツに対する市民の関心も高く、トリノ大会の時には地元でインターネットによる観戦会が行なわれたり、写真展が開かれるなどで盛り上がっていたそうだ。けれども残念なことに、アルペンスキーのパラリンピック選手は、現在も過去も旭川にゆかりのある人がいない。それどころか、現在のナショナルチームメンバーには、北海道在住者がひとりもいないのだ。こうした状況をふまえて、アルペンスキーの裾野を旭川でも広げたい、というのが関係者の願いであり、今回、私が旭川に招かれたのは、これらイベントを実現するための可能性と克服するべき課題を選手の目から見てほしい、というのが目的のひとつだった。

 今シーズンの私の国内初滑りとなったのは、カムイスキーリンクス。30度の斜度を感じさせないほど広々としたコースで、気持ちよ~く大まわりしてみたり、集まってくれた地元のチェアスキーヤーたちとわいわい一緒に滑ったり、あちらこちらのリフトに乗ってすべてのコースを滑走したり……、と北海道のパウダースノーを満喫することができた。カムイはご承知のとおりSG、GS、SLいずれもSAJ公認のコースを持ち、競技会場として適地なのは言うまでもない。ただ、車いすユーザーを含む障害のある人が大勢集まり、大規模な競技会やイベントを開くにあたっては、レストランやトイレなどの設備が古いといった難点はある。けれども多少の改善と工夫により問題を解決することはできるだろうし、何より大切なのは地元の熱意と協力体制だろう。これさえあれば、たいていの問題は解決できるものだ。

 今回の旅では、スキー以外の楽しい雪遊びのひとつとして、「犬ぞり」を新たに体験することもできた。車で40分ほど郊外に向かって走った先で出会ったのは、25頭の元気な犬たちと、カナダ人のダニーさん&京子さんというユニークで温かい人柄のご夫婦だ。そもそも私は「犬ぞり」がどんなものなのか、某動物マンガで読んだ知識しかなく、「たしか人は立ってそりに乗って、足で漕ぐんだよなあ~。じゃあ、私は何をすればいいのだろう?」と漠然と考えていた。けれども心配はまったく無用だった。家造りが本業のダニーさんが工夫して作ったという、座った状態で操作ができるそりに乗り込むと、4頭の犬たちは、雪原の中に作られたコースを懸命に走り始めてくれたのだ。雪原の中、犬と一緒に走るスピード感と爽快な感覚は他に例えようがないほど面白いものだった。不慣れな操作ゆえに何度か新雪に突っ込んでしまい、犬たちには迷惑をかけたけれど、パウダースノーにズッポリ潜り込むのもそれはそれで楽しい。それにしても何の予備知識も事前トレーニングもなしに、犬ぞりが体験できるとは想像もしていなかった。座った姿勢で乗る特製そりのおかげで、子どももお年寄りも、そして足に障害があっても、犬ぞりを体験することができるのだ。雪と自然の中で戯れる遊びとしては、なかなかユニバーサルなものでぜひ多くの人に体験してもらいたい、と思った。

 豊富な雪を利用した大自然の中での遊びやスポーツは、他にも数多くあり、その多くが旭川近郊で体験できるようだ。空港から街の距離、そして自然と街の距離が適当な地の利をうまく使うとともに、ユニバーサルな視点を持って、これらの観光資源をブラッシュアップすることができれば、これまでの日本にはない、新しいリゾート地のあり方が模索できるかもしれない。「旭川に行けば、さまざまな冬のアウトドアライフが“誰でも”体験できる」と言われるような街作りをぜひめざしてほしいと思う。そしてまた、旭川からもぜひ、アルペンスキー選手がパラリンピックに出場してくれることを願っている。そのためにはアルペンスキーを、そして競技を身近に感じてもらうためのイベントや講習会、そして競技会などが旭川で開かれるとよいだろう。

 雪質やコースの良さ、そして旭川の人たちの熱意を見ていると、近い将来、国内大会だけでなく、ワールドカップも開けるかもしれない、そんな可能性も充分感じさせてくれた。北の大地からのさまざまな発信に、これからも注目していきたい。