大日方邦子のコラム

バンクーバー大会に向けて考えること《月刊スキージャーナル 2007年4月号》

最終更新日: 2008/01/25 | Edit

 1月、ワールドカップ北米シリーズに参戦してきた。アメリカはコロラド州アスペン、カナダではBC州キンバリーが今回のレース会場だ。約2週間の期間中に、移動を含めながら、全部で9レースが行なわれた。昨年3月のトリノ・パラリンピック以来の国際大会であり、各国チームともにどのような陣容で来るのか、興味があった。

 いわゆる健常者のスキー界では、オリンピック以上にワールドカップでの勝利や成績に、より高い価値を感じる選手や関係者が多いと聞く。けれども障害のあるアルペンスキーレーサーの世界では、今はまだ、ワールドカップよりもパラリンピックに力点を置く考え方が主流だ。つまり今シーズンは2010年バンクーバー大会に向けた、第1年目ということになるわけで、過去の経験では、それぞれのチーム事情が浮き彫りになりやすい年なのだ。

 アスペン、キンバリーともに特徴的だったのは、宿泊場所がコンドミニアムであり、選手たちが試合期間中の自炊を余儀なくされたことだ。食べ物の嗜好が欧米人とは異なることが多い日本人の場合、キッチン付きの宿舎そのものはありがたい。しかし、試合期間中、各選手が完全自炊する、ということになると話は別だ。ワールドカップでは連日レースが行なわれる。サービスマンがいないわがチームにおいては、選手たちは試合・表彰式後、休む間もなく翌日の試合に備えてワクシングやチューンナップを自分自身で行なう。レース数が増え、スケジュールが厳しくなる一方の昨今、サービスマンのいないチームははっきり言って、日本チームくらいだ。しかもアスペンでは、車で30分以上離れた町のモーテルに滞在したため、移動にも多くの時間とエネルギーを費やすことになった。そんな状況の中で、選手が自分たちの食事まで心配したくなかったというのが、私自身の率直な感想だ。

 そしてもうひとつ、大きな負担となったのが、大陸内での移動をタイトなスケジュールの中で行なう必要があったことだ。飛行機に持ち込む荷物の個数と重さはここ数年、規制が厳しくなるばかりで、規程の重量と個数に納めるためのパッキングには毎度、苦労している。そして飛行場からレース先までの移動手段も大きな問題となる。今回は、アスペンに入る前のデンバー空港に到着早々、予約していたレンタカーのピックアップに手間どった上に、予約していたバスでは荷物が積みきらないことがわかり、空港で5時間以上、無為な時間を過ごした。アスペンからキンバリーに移動する際には、先に帰国するスタッフのフライトスケジュールに合わせて、深夜12時に宿舎を出発し、予定よりもだいぶ早くデンバー空港に到着。チェックインでは、1個あたりの規制重量が私たちが知らされていたのとは異なったため、莫大な超過料金を払わされそうになって肝を冷やしたし、到着したカルガリーでは、デンバーで別れたスタッフの交代要員として、日本からやってくる後続スタッフの到着を何時間も待った。キンバリーではレース終了直後からパッキングを始め、夜9時に宿舎を出発したところ、トラブルなくスムーズに到着したのは良かったのだが、空港到着はなんと午前1時。巨大な荷物の山とともに、空港で居眠りをしながら一夜を明かした。

 考えてみると、日本チームが北米での大会に出場したのは、実に2002年のソルトレイク。パラリンピック以来のことだ。資金力のないわがチームの場合、トリノ大会に向けての4年間はヨーロッパでの大会だけに照準を絞って遠征を行っていたためだ。しかし、2010年バンクーバー大会に向けたこれからの4年間は、広大な北米大陸を移動しながら行なわれる試合に、数多く出場することになるだろう。ワールドカップの日程は今後も今回同様、余裕のない状況が続くことは想像に難くなく、飛行機と車を駆使した移動を含むことが想定される以上、チェアスキーやスキー板などの用具を、短時間にパッキングする方法を考える必要があるし、重量や個数に関する航空会社との事前の交渉が必要不可欠だ。また、到着してから荷物が積みきらない、などという間抜けなことをしないためには、チームカーをどうするか、ある程度、定型的に決める必要があるだろう。

 トリノ後、初のレースとなった今シリーズでは、従来から活躍している選手がほぼ順当に、ワールドカップ上位に付けている。パラリンピックを最後に引退した選手も多く、今シーズンの参加選手数は減少気味だ。そのぶん、転倒などで試合中断することが少なくなり、試合はスムーズに行なわれるようになった。そして、上位に食い込む選手の多くがトレーニングを年間300日以上こなしているような実質的なプロ選手であることに注目する必要がある。こうしたレース状況は、ポイント上位者のみが競い合う本来のワールドカップの姿に近づいていると言えるだろう。

 そして今シーズン目立ったのは、チームスタッフの構成を変えてきている国が多かったことだ。たとえばアメリカはヘッドコーチが代わり、さらに若手育成で大きな実績を持ち、名コーチの呼び声が高いコーチが新たに加わって、その動き方はより機敏でプロフェッショナルなものに成長している。バンクーバー大会を控えたカナダチームも、従来からのスタッフ体制を強化する形で、元オリンピックチームのコーチが加わった。一方で、参加そのものを見合わせるヨーロッパ勢も目に付き、チーム力の差で明暗が分かれたシリーズだった。

 過去のいずれの大会でも、強豪国ほど、パラリンピックの翌シーズンは、ワールドカップに出場する選手が一時的に減るが、翌々シーズン、そしてその次のシーズンにはニューフェイスが躍進する傾向がある。4年に一度のパラリンピックに照準を合わせるため、今シーズン、各国が国内で若手選手の発掘・育成を行なっていることは容易に想像できることだ。

 翻って日本チームの状況を見ると、残念ながら、そのチーム編成も強化事業も順調、とは言い難い。世界の潮流からこれ以上遅れをとらないようにするためには、関係役員が当事者意識を持って、経済基盤と組織の充実に取り組んでもらえれば、と思う。